TOMIYUKI KANEKO
金子富之
―守護の虎―
今まで多くの虎を描いて来ました。虎はアジア圏では獣の王とされ守護や魔除けの象徴とされます。色々な虎の構図の取り方があると思いますが、正面構図が一番迫力があると思います。

白虎(びやっこ)は虎の神獣の中でも一番有名です。中国より伝わる四神と言うものがあり、西方の白虎、東方の青龍、南方の朱雀、北方の玄武と言う四方を守護する神獣の事です。白虎の白い色は五行説では西の色とされます。

東武動物公園でホワイトタイガーを取材させて頂きました。
白虎は古代中国より伝わる五行思想の西を守護する白い虎の神獣。四方を守る四神の中で白虎は一番高齢とされる説があります。虎が500年生きると霊力を持ち白虎となるとされます。
道教では白虎は白虎神君として人格神化し監名神君(かんめいしんくん)と言う名を与えられ護法神となっています。日本では長い体の白虎が高松塚古墳やキトラ古墳の壁画に描かれています。

白虎は伝説上の存在とされていますが自然界にも白い虎(ホワイトタイガー)は実在し、インドでは神の使いとされています。
これはベンガルトラの白変種でその瞳はアイスブルーである事が多いとされます。白変種とはかつて地球が氷河期であった時、身を隠しやすい様に白い体であった時の遺伝子が影響しているとの事です。

ホワイトタイガーがお客さんの日傘に驚き、興奮し向かって来るのを見ました。柵や強化ガラスで遮られているにも関わらず多くの観客が一斉に後ずさりしていました。虎は正面構図が一番迫力が出るのではないかと思っていましたが、虎の迫力と言うものが見る者に実際に影響を及ぼしているのを初めて見ました。絵画においてその迫力に少しでも迫りたいと思います。

野生の虎と言うものは神出鬼没でとても恐ろしいものなのだと思います。茂みに身を潜めた虎は獲物を容易に間合いに引き込みます。一足飛びに襲い掛かり、その牙と爪の威力は凄まじく野生の恐ろしさは容赦しないと言うところだと思います。

千人針。虎の形に赤い糸の玉結びが造られ、死線(しせん=四銭)を超える為、五銭玉。苦戦(くせん=九銭)を超える為、十銭玉が縫い付けられました。
父親から譲り受けた物に変わった物がありました。〝千人針〟です。千人針とは戦時中多くの女性が出征する兵士に武運長久を願って造られた手拭いの様な布です。民間信仰であり武人としての命運が長く続く事、出兵した方がいつまでも無事な事を祈ったものです。弾除けの意味もあるそうです。〝武運長久〟と書かれた文字は汗で滲んでいました。出兵し日本に帰って来る事が出来るのは今では考えられない程の体力と精神力だと思います。
ドローイングで小下絵を繰り返し描いてみる事にしました。




イメージが徐々に固まり始めました。虎の体の部分に千人針の玉結びを真似て点々を打つ描き方を思いつきました。

武運長久の大虎(ぶうんちょうきゅうのおおとら)制作風景。
最初に正面構図の虎のイメージが思い付き、着彩していくにつれどこかで見た様な雰囲気になり千人針に縫い付けられた虎と重なる様になりました。虎の千里行って千里帰るその強靭な力を表現したいと思いました。虎はまた帰って来れるところが確かな信頼の様な感覚を覚えます。虎に関する様々な感覚が集約し一つのイメージを造る事が出来ました。