TOMIYUKI KANEKO
金子富之
―本栖湖の怪物―
怪物〟…。怪奇幻想の世界で語られるならともかく、我々が生活するこの現実の世界で怪物が出現したとなると、cryptozoology (未知動物学)の領域となり、リアリティー、現実感の要素が加わり、そのフィールドの広がりは幻想と現実の境界を歩む様な、恐ろしくも喜ばしい感覚を覚えます。

フタバスズキリュウの頭部
子供の頃、数々の未確認生物の痕跡や足跡に想像力を豊かに空想したあの高揚感が鮮やかに蘇って来ます。思えば子供の時の夢が恐竜の化石を発掘する職業に就き、〝フタバスズキリュウ〟の様な巨大な化石を発見する事でした。

富士山、北西山麗にある〝本栖湖〟。最大水深121.6m 2022年北米原産の怪魚、レイクトラウトも釣り上げられたといいます。
富士五湖の一つ本栖湖を取材する機会に恵まれました。ある専門書によると、富士五湖は怪生物の無法地帯との事です。
本栖湖には〝モッシ―〟と呼ばれる2.5mの巨大魚や、畳一畳ほどもあるヘラ鮒が目撃されたと言います。ダイバーが自動車と同じぐらいの大きさの巨大魚を目撃された話もある様です。
西湖には〝サイボゴ〟といわれる鰻のような巨大生物を河口湖では漁労の監視員や湖畔の旅館の方が巨大な大亀を目撃したと言います。
山中湖には〝ヤッシー〟精進湖には〝シヨッシー〟と呼ばれる正体不明の怪生物が出没すると言います。1970年代のネッシ―などの未確認生物ブームに因んで命名されたのだと思いますが未知の生物に対し時代が一つの盛り上がりを見せた面白い現象だと思います。

未確認生物を専門で研究する生物学者ではない、絵を描く事を専門とする画家がその伝説や目撃談に触れた時、実際の場でどういった反応を見せるのか、芸術家の特性が問われる事になります。
現場のスケッチや風土を感じる事、情報を収集する事、想像図やタブロー作品の基となるイメージを造る事、その制作において背中を少しだけ押して頂く力を得る事だと思います。画家の出来る事は創作が中心軸だと思います。

大きな鯉が生息しています。
未確認生物、怪物を楽しむ文化の様なものがあり、誇張され経済効果もあり、デフォルメされていると思いますが、実際の所〝モッシー〟と はどうゆうものなのでしょうか?
もし本当に体長2.5mの魚類が本栖湖に存在するとなると、過去に放流されたと言うチョウザメや何かの魚種の倍数体などがその正体なのではないかと思います。
しかし、この謎には夢を守る為、触れてはならないのだと思います。未知のものに対する自然への畏怖の心が鎧となって伝説を守護しています。

静かに波が打ち寄せる幻想の本栖湖。
正体は秘される事で神秘性を生み、その力は夢やロマンとなり様々なイメージや状況を幻成(げんじょう)させると思います。あの美しい水面の奥に何か巨大な怪物がいる、そう思いながら絵が描ける、本栖湖の怪物に対し一人の画家として挑める、喜ばしい出来事です。

この時描いたモッシーのドローイングはポストカードになりました。ドローイングやジャーナリングは個人 的心情を記録できる所が面白いと思います。これからもモッシーが捕獲されず、永遠に謎である事を願います。