​―霊水紀行―

  地方の地の理、現地の要素を使いその場特有の作品を造る事はオリジナリティを得る上でも大事なことだと思います。絵画は環境の影響を受けると思います。大きな器に大量の水が入る様に、環境に合わせて何かが形成されていくのだと思います。

 

 水は透明で井戸水を使っても、水道水を使っても画面上に現れる色味の変化はほぼ無いと思います。しかし特殊な水を使う事で、呪術的な要素が加わるのだと思います。

 学生の時、日本画原論と言う授業で岩手県にある釜石鉱山に行きました。そこで〝仙人秘水〟という水を制作で使った時、気付かれない所で工夫出来ると言う面白さがある事を知りました。

 

 お世話になっているギャラリーの方から〝神刀山水〟を頂きました。埼玉県の三峰神社の鎮座する三峰山、その龍神が住むとされる龍洞という井戸からの霊水です。三峯神社の眷属は狼であり奥秩父では日本狼らしき獣の目撃報告もある為、狼や神獣の作品に使わせて頂くと良さそうです。

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   興味深い研究があります。ハードロックを聞かせた水とクラシックを聞かせた水では凍らせた時、その結晶に差が出ると言うのです。水はその土地にしみ込み風土や地霊を記憶していてその土地固有の風土水となっているのだと思います。

   水にこだわっても物理的には画面上に現れる差というものはほぼありません。水に宿る力は恐らく、石と同じ様にそれに力があると信じてようやく門が開く世界なのだと思います。水に力があるというより、それを使う人間側に反応の原因がある心理的作用なのだと思います。こちらの受け取り次第では本当に力があるのです。 実際、どんな名水、霊水が自然の中から湧き出ているのでしょうか。

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七ヶ宿の大草鞋。

宮城県の七ヶ宿では巨大な草鞋や道祖神が祀られております。ここでは〝道祖神福水〟を汲むことが出来ます。道祖神とは旅人を守り悪霊の侵入を防ぐ境界の神です。

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  神仏にまつわる建築物はシンメトリーの場合が多いですが、逆光だとそれが際立ちます。エゴ的な要素、造形を削ぎ落していくと自然に左右対称に近いシンメトリーの構図になる感覚があります。その方がインスピレーションを受け取る場所として機能するのかも知れません。

山形県の湧き水の里を訪れてみることにしました。

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                 田園風景の広がる作谷沢(さくやさわ)                       

 かつてこの地の小学校の校長先生は曼荼羅の世界観がこの地に顕現していると考えました。曼荼羅と湧き水の里としても知られているようです。曼荼羅の世界の湧き水で育ったお米は美味しそうです。

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 水の豊富な地域を象徴するように水車が回っています。まず、北東にある子安神社に向かいました。この地の鎮守様とされます。

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子安明神の〝龍神水〟

 大同二年(807)八月十九日の夜に西の空から火炎を上げた光輪が飛来しこの地に落ちたそうです。この水で龍を描くとご利益がありそうです。

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 龍や霊亀は水神や瑞獣の特性が強いので水場では良くその造形が使われます。また、この場所で落馬が度々起こり、不思議に思い寒河江公が神に祈ったところ夢に白い蓮華を持ち紫の雲に乗った如意輪観音が現れこの地を霊地だと告げました。寒河江公は山林内を調べた所、一体の仏像が岩の上に鎮座しておりそこに喜んでお堂を建て子安神社としたとあります。子安大明神は、子授け、安産、災難除け、疱瘡や麻痺を軽くして頂けるご利益とされます。子安神社の社殿背後にチチノキと呼ばれる大杉がありその皮を剥いで煎じて飲むと乳の出が良くなるとされましたが、昭和六十二年の大火で類焼してしまいました。その基幹部から胎児を思わせる木塊が見つかり、ご神体とされました。

次は東黒森山方面に向かいました。

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亀の子(たらたら清水)

 大きな亀が水を吐いています。その昔、この清水は上杉と最上軍の長谷川堂の戦の時、傷を負って、やがて死を迎える方の末期の水として飲まれたそうです。

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山奥から大亀が出てきた様な迫力。解りやすく力強い。

 地中にしみ込んだ雪解け水が出ているらしく、とても冷たい湧き水です。幼少時、ある中学校の片隅の林の中にある空き地で卒業生が記念に残した亀などの像達が壊れ苔むして残っていて退廃的ムードが漂っていましたが、亀の子は生命力と重厚な存在感です。

次は小針生方面に向かいました。

 先程とは雰囲気の違う亀が水を吐いています。自然の中に人工物が苔むしてあると物の気でしょうか、場の空気が変わります。物の存在感というものは作品の存在感そのものでないでしょうか。

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〝萬年水〟

 鶴は千年、亀は万年生きるとされたので萬年水(まんねんすい)なのでしょうか、何とも言えない様な目をされています。

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 子供にはとても不思議な物体に見えるようです。竹藪の中に立っている朽ちた郵便ポストや防空壕など身近な不思議が昔は沢山ありましたが、それは子供達にとって想像力の源泉です。

次は雷神社に向かいました。

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 雷山の麓からは雷(いかずち)と言う名の霊水が湧き出ています。この水を汚すと雷神が怒り晴れた日でも雷鳴が聞こえると言われています。ある夜、制作中、雷雨でもないのに大規模な地域の停電が起きた事がありました。原因は電線に蛇が絡んでショートしたからだそうです。自然に包囲された中に人間の住む所があるのです。

 湧き水を利用し山葵の栽培もされているようです。この辺りの湧き水の綺麗な事を意味しています。ある地域では水道の蛇口から小さい山椒魚が出てくる事があるそうですが、自然の侵入はとても能動的で休まずやって来ます。

最後に嶽原方面の五番御神酒(ごばんおみき)に向かいました。

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 一段低くなっている所に五番御神酒がありました。何百年も湧き出し少しずつ土を削ったのか、神様もお祀りされている事からご神体とされている湧き水の場なのかも知れません。

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 五番御神酒を吸い上げる植物の幹は螺旋のエネルギーでしょうか。竜巻や台風、水の渦、水が移動する時の一つの形として渦巻があると思います。

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 白い砂と一緒にこんこんと〝五番御神酒〟は湧き出ています。御神酒と言ってもお酒でなく水ですがこの霊水は虚空蔵菩薩が身を洗い清めたと言う伝説があります。

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 水面の影の揺らめきは吸い込まれる様な意識の揺らぎを生むのではないでしょうか。ものが人を惹き付ける要素に揺らぎがあるのだと思います。水の揺らぎのリズムは水しか作り出す事が出来ません。揺らぐ瞬間の意識は捉えづらく、同じリズムの繰り返しによる呪術の様な印象も受けます。

 池の底から白い砂と一緒に湧き出ています。雨をどんどん吸収しどんどん放出する湧き水はそのスピードを維持する力を持っている事に本質があると思います。画家も吸収出来なくなった時、新しい絵が生まれなくなって来るのだと思います。

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 日が差して来た時、砂金の様な砂の粒が光っているのを見付けました。東北の砂金は赤みを帯びていると言う方もおります。東北の金山の産出の多さからその昔、黄金の国ジパングと呼ばれたそうですが、奥州藤原氏の中尊寺金色堂はその金の豊富さを物語っていると思います。

 その地の影響で何かが形づくられる物語は土地と作り手の因果とに影響すると思いますが、絵画作品に置き換えた時、画家も風土に正確に反応しその媒体になり必然的に何かが生まれるのだと思います。湧き水を作品に使う事により作品よりも描き手の意識に良い影響がでると感じました。そう思った方が自然と繋がれ、共鳴の力を得られると思います。この作品があの土地と繋がっていると思うと透明で見えないですが、〝意味の世界〟の力としては水は効力を持つのです。その意味で人間の行動が促された時、行動力となり人や物質に対し影響が出るのだと思います。